健康診断のバリウム検査で使われる硫酸バリウムは、X線を透過しない性質を利用して、食道や胃、十二指腸の形を鮮明に映し出すために不可欠な薬剤です。しかし、その主成分である硫酸バリウムは、体内で消化・吸収されることが一切ない、ただの「白い粉」です。検査の際は、飲みやすくするために水や発泡剤と混ぜて液体状にしていますが、その本質は水に溶けない鉱物であり、例えるなら非常に粒子の細かい砂や粘土のようなものです。検査が終わると、このバリウムは消化管を通過し、便として体外へ排出されるのを待つだけとなります。ここで問題となるのが、私たちの腸が持つ「水分を吸収する」という働きです。通常、便が腸内を通過する過程で、体に必要な水分が吸収され、適切な硬さの便が作られます。バリウムも、このプロセスから逃れることはできません。下剤を飲まずにバリウムを腸内に長時間放置してしまうと、バリウムを包んでいる水分が腸壁からどんどん吸収され、バリウムの粒子だけが濃縮されていきます。その結果、バリウムは徐々に粘土のような状態から、最終的にはコンクリートや石膏のようにカチカチに固まってしまうのです。こうして固まったバリウムは、腸の蠕動運動だけでは動かすことができなくなり、腸管を塞いでしまう「バリウムイレウス(腸閉塞)」を引き起こします。激しい腹痛、嘔吐、腹部の膨満感などが主な症状で、放置すれば腸が壊死したり、穴が開いたりする「消化管穿孔」といった命に関わる合併症を引き起こす危険性もはらんでいます。検査後に渡される下剤は、腸の動きを活発にし、バリウムが固まる前に強制的に排泄させるための、非常に重要な役割を担っているのです。