あれは忘れもしない、古い給湯器の交換をDIYで挑戦しようと思い立った日のことだ。作業の基本はまず止水。家全体の水を止めるために、庭の隅にあるメーターボックスの蓋を開けた。そこには、見るからに年季の入ったハンドル式の屋外止水栓が鎮座していた。よし、これを時計回りに…と力を込めた瞬間、ピクリとも動かない現実に直面した。「あれ?固いな」。もう一度、今度は体重を乗せるように力を入れる。しかし、止水栓はまるで岩のように動かない。長年、誰にも触れられることなく、この場所で風雨に耐えてきたのだろう。その結果、内部が錆びついたり、水垢で固着したりしてしまったのかもしれない。焦りが込み上げてきた。これを閉められなければ、給湯器の交換作業が始められない。インターネットで「止水栓 固い 回らない」と検索すると、同じような悩みを抱える人々の声と、いくつかの対処法が見つかった。まずは、潤滑剤を試してみることに。ハンドルと本体の隙間に、家にあった浸透潤滑スプレーを吹き付け、しばらく待つ。祈るような気持ちで、再度ハンドルに力を込める。…ダメだ、変化なし。次に試したのは、軽く衝撃を与える方法。ゴムハンマーでハンドルの根元あたりを、優しくコンコンと叩いてみる。固着が剥がれることを期待したが、これも効果なし。プライヤーで挟んで回す、という方法も紹介されていたが、これはリスクが高いと感じた。ハンドルやバルブ本体を破損させてしまったら、もっと大変なことになる。結局、自力での解決は諦め、近所の水道屋さんに電話をすることにした。事情を話すと、「よくあるんですよ、無理しないでくださいね」と優しい言葉。すぐに駆けつけてくれた職人さんは、専用の工具を使い、いとも簡単に止水栓を回してくれた。さすがプロだ。結局、給湯器の交換は無事に終えることができたが、あの止水栓との静かな戦いは、私に大きな教訓を与えてくれた。無理は禁物。そして、普段からのメンテナンスがいかに重要かということだ。定期的に少し動かしてやるだけで、固着は防げるらしい。これからは、庭の水やりついでに、止水栓にも少しだけ愛情を注いであげようと心に誓ったのだった。