封水切れとの戦いあの日のトイレ悪臭騒動

あれは忘れもしない、夏の暑い日のことでした。仕事から帰宅し、いつものように自宅マンションのドアを開けた瞬間、「ん?なんだか臭う…?」と感じました。最初は気のせいかと思いましたが、リビングに近づくにつれて、明らかに下水のような不快な臭いが強くなってきます。まさか、どこか水漏れでも…?不安になりながら家の中をチェックしていくと、臭いの発生源はトイレであることが判明しました。恐る恐るトイレのドアを開けると、むわっとした悪臭が鼻をつきます。そして便器の中を見て、原因が分かりました。いつも溜まっているはずの水、封水が、完全に干上がっていたのです。「うわー、これか!」封水がないと、こんなにもダイレクトに下水の臭いが上がってくるものなのかと、衝撃を受けました。考えてみれば、その前の週に短い夏休みを取り、3日間ほど家を空けていました。その間に、連日の猛暑で封水が蒸発してしまったのかもしれません。とりあえず、臭いを何とかしなければなりません。慌ててコップに水を汲み、便器に注ぎ足しました。すると、あれほど酷かった臭いが、嘘のようにスーッと収まっていきました。封水の威力、恐るべしです。しかし、安心したのも束の間、ふと疑問が湧きました。「たった3日家を空けただけで、封水って完全になくなるものなのだろうか?」もしかしたら、蒸発以外の原因もあるのかもしれない、と不安になりました。そこで、しばらくトイレの様子を注意深く観察することにしました。すると、数日後、また封水が少し減っていることに気づいたのです。蒸発にしては減りが早い気がします。排水口をよく見てみると、便器の底に、掃除で取りきれなかった髪の毛が数本、排水口の奥へと垂れ下がっているのを発見しました。もしかして、これが毛細管現象ってやつか?試しに、割り箸を使って髪の毛を取り除いてみました。すると、その後は封水の減りが明らかに遅くなったのです。どうやら、蒸発に加えて、毛細管現象も複合的に影響していたようでした。この一件以来、私はトイレ掃除の際に排水口周りを念入りにチェックするようになり、長期不在の前には必ず封水を確認し、必要であれば少し水を足しておく習慣がつきました。たかがトイレの水溜り、されど封水。その大切さを身をもって学んだ、忘れられない夏の日の出来事でした。